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東京高等裁判所 平成12年(行ケ)47号 判決 2000年6月29日

原告

ホワイトホールジャパンコーポレーション

代表者

【A】

訴訟代理人弁理士

【B】

【C】

【D】

【E】

被告

【F】

訴訟代理人弁理士

【G】

【H】

【I】

主文

特許庁が平成10年審判第30739号事件について平成11年9月14日付けでした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  原告

主文と同旨

2  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第2当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯等

(1)  被告は、別紙審決書添付の別紙(1)記載のとおり、「カーキムコ」と「CARKIMUKO」の文字とを二段に併記して成り、指定商品を旧第19類「台所用品、日用品」とする登録第1307335商標(昭和48年8月17日登録出願、昭和52年10月28日設定登録、昭和63年5月25日及び平成9年6月10日更新登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。

原告は、平成10年7月22日、本件商標について、後記引用商標を使用して行う原告の業務に係る商品との関連において商標法53条1項に該当する事由があるとし、その登録を取り消すことについて審判を請求し、特許庁は、これを平成10年審判第30739号事件として審理した結果、平成11年9月14日、「本件審判の請求は、成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」との審決をし、同年10月25日、その謄本を原告に送達した。なお、出訴期間として90日が付与された。

(2)  本件の背景事情は、次のとおりである。

原告は、「KIMCO」と「キムコ」の文字とを2段に併記して成り、指定商品を旧第1類「化学品、薬剤及び医療補助品」とする登録第537250号商標(昭和33年8月19日登録出願、昭和34年6月15日設定登録。以下「引用商標」という。)の商標権者である。

被告は、自己が代表者に就任している日本キムコ株式会社(以下「日本キムコ」という。)に対して、本件商標の使用を許諾している。

日本キムコは、自社の商品の一部の商品自体及びその包装に、別紙審決書添付の別紙(2)(上記商品が包装されたものの表側を示す。)及び同(3)(同じく裏側を示す。)表示のとおりの商標(以下「本件使用商標」という。)を付して使用している(本件使用商標が商品自体及び包装に付された日本キムコの商品を、以下「本件商品」という。)。

2  審決の理由

別紙審決書の理由の写しに記載されたとおりである。要するに、本件商標の指定商品である旧第19類「台所用品、日用品」に属する「脱臭器」に含まれるのは、脱臭剤によって脱臭がなされる場合についていえば、脱臭剤を入れて脱臭するための器具(脱臭剤の入っていないもの)であるのに対し、本件商品は、その包装に、品名として、「脱臭剤」のほかに、「脱臭器」もが表示されているとしても、結局のところ、上記「脱臭器」には該当せず、「自動車用の脱臭剤」であり、「脱臭剤」は旧第1類「化学品」に属するものであるから、本件商品は、本件商標の指定商品である「台所用品、日用品」に含まれず、また、本件商品を脱臭器と類似する商品とすることもできないから、結局、本件使用商標は、本件商標の指定商品又はこれに類似する商品について使用されておらず、商標法53条1項の要件を具備しない、としたものである。

第3原告主張の審決取消事由の要点

審決は、本件商品が旧第19類「台所用品、日用品」に属する「脱臭器」に該当するものであるにもかかわらず、該当しないと誤った判断をし、その結果、日本キムコによる本件使用商標の使用は商標法53条1項に該当しないと誤った結論を導いたものであって、違法であるから、取り消されるべきである。

1  本件商品は、脱臭剤をプラスチック製の容器に収納した自動車の車内脱臭用の脱臭器であって、自動車の車内の不快臭を吸着除去するためのものである。

2  審決は、本件商標の指定商品である旧第19類「台所用品、日用品」に属する「脱臭器」に含まれるのは、それ自体で、あるいは、脱臭剤等を入れて脱臭するための器具(脱臭剤の入っていないもの)であると認定したが、誤っている。

旧第19類「台所用品、日用品」に属する「脱臭器」は、特許庁の審査例についてみる限り、具体的商品ごとに判断されており、上記「脱臭器」と認められたものの中には、脱臭剤を内蔵すると見られるものもある。審決がいうような器具(脱臭剤の入っていないもの)に限られると断定的に判断し得る根拠を見出すことはできない。

しかも、本件商標についての昭和62年の登録更新の際、被告自身、本件商標がその指定商品の一つである「脱臭器」に使用されていると主張し、その使用の事実を示す資料として、二つのパンフレット(甲第3号証の2の一部)を提出し、それらのパンフレットによって、「天然アミノ酸と高分子化合物とを合成してゲル化した脱臭剤」をプラスチック製の容器に収納した脱臭器であって、冷蔵庫内に配置して庫内の臭気を脱臭するものと、自動車の車内に配置して自動車内のタバコその他の臭気を脱臭するものとを示したのに対し、特許庁は、これらの資料によって、本件商標がその指定商品である脱臭器に使用されているものと認定しているのである。そして、上記資料にある商品が本件商品と同一又は同種の商品であることは明らかである。このように、特許庁自身が、本件商標の指定商品中「脱臭器」がいかなる商品であるかを特定する判断をしている場合には、その判断は公信性を有するものというべきであって、このような判断のなされた本件商品につき後に解釈する場合において、上記判断をむやみに変更することは、法の安定性の面からも、あってはならないことである。

第4被告の反論の要点

審決の認定判断は、結局のところ、正当であり、審決を取り消すべき理由はない。

1  日本キムコが本件使用商標を付して使用している本件商品は、原告主張のとおり「脱臭器」である。この点において、被告に異論はない。

本件商品は、脱臭剤の入った脱臭のための器具そのものである。審決では、本件商標の指定商品に属する「脱臭器」となるためには、(脱臭剤の入っていないもの)との括弧書きが付されるものである必要があるとされているけれども、これは、本件商品の販売及び流通における実状の特殊性を考慮することなくなされた判断というべきである。本件商品の販売流通形態において、脱臭効果を発揮する脱臭材料を充填することなく容器のみを販売することはあり得ない。これは充填材となる脱臭材料とその容器とが相まって脱臭器としての機能を発揮するものだからである。

2  本件商品は、上記のとおり、「脱臭器」に該当し、旧第19類「日用品」の範疇に属するものである。

審決が何故に本件商品を「脱臭剤」と認定したかは定かではない。しかし、引用商標の指定商品に属する「脱臭剤」と本件商標の指定商品に属する「脱臭器」とが非類似商品であるとする審決の認定自体は正当である。

第5当裁判所の判断

1  本件商品が、縦、横、高さをそれぞれ約10、13、3センチメートルとするプラスチック製容器(審決にいう「脱臭器」)と充填材となる脱臭材料(審決にいう「脱臭剤」。ただし、プラスチック製の中容器に収容されている。)とが相まって自動車内の脱臭の機能を果たしているものであり、この形態で流通に置かれるものであることは、甲第7号証及び検甲第1号証によって明らかであり、この点につき疑問を入れる余地はない。

上記認定の下では、本件商品を旧第19類の「日用品」に属する「脱臭器」と解することに、格別不都合があるとは考えられない。仮に、何らかの理由により、「脱臭器」と解することに不都合があるとしても、そのときは、本件商品は、「脱臭器」以外のものとして、旧19類の「日用品」に属することになると解するのが相当である。

なお、甲第3号証の1ないし3及び弁論の全趣旨によれば、特許庁自身も、本件商標についての昭和62年の登録更新の際には、本件商品と同種の商品を脱臭器とする被告の申請に基づき、指定商品についての使用を認定して更新を認めたことが明らかである。

2  審決は、本件商標の指定商品である旧第19類「台所用品、日用品」に属する「脱臭器」とされるのは、脱臭剤を入れて脱臭するための器具(脱臭剤の入っていないもの)のことであるとしたうえ、これを前提に、本件商品につき、それが脱臭剤を構成要素としていることを根拠に、「脱臭器」に該当しないとした。

しかしながら、「脱臭器」という以上、それ自体が脱臭作用を行い得るものであると考えるのが自然であるから、脱臭剤による脱臭を目的とする商品が日常的に用いられる「脱臭器」として流通に置かれる限り、脱臭剤の入った容器の形態をとるのが通常であり、脱臭剤の入っていない容器のみが脱臭器として流通に置かれることは、極めて例外的なものというべきである。

そうだとすると、本件商品の主体となるのが脱臭剤であるとしても、これを「日用品」に属する「脱臭器」とみることに、格別問題はないというべきである。

3  そうすると、審決の認定判断は、違法であることが明らかであり、その違法が審決の結論に影響を及ぼすこともまた明らかである。

以上によれば、原告の本訴請求は理由があるから、これを認容して審決を取り消すこととし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山下和明 裁判官 宍戸充 裁判官 阿部正幸)

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